著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール
動物病院の治療を受けているのに、肝臓病の指標であるGPTやALPがなかなか下がらない。薬はかかさず飲ませているのになぜだろう。
このようなとき、少し視点を変えてみると状況が良くなるケースが意外と多くあります。
きっとこのページはご愛犬ご愛猫の肝臓を心配していらっしゃる多くの飼い主様にお役立ちすると思います。
私の至らなさから、どうしても文字だけで伝えきれない部分や、簡略化させていただいた部分がありますので、不明な点はどうぞ遠慮なく気軽にお問い合わせください。
「沈黙の臓器」肝臓の役割
肝臓は体内で最大の臓器であり、かつ生命活動において非常に重要な役割を担っています。
役割の1つは体へのエネルギー供給です。食事から効率的にエネルギーを吸収するための胆汁を生成したり、腸管から吸収された栄養分を体で使いやすい形に変換することで、生命の活動エネルギーを作り出します。
もしエネルギーが余剰であれば、それを蓄えて不足時に取り出してくれるので、動物たちは空腹が少々続いたとしても動けなくなることはありません。
体内の老廃物を代謝排泄したり、有害物質を解毒するのも肝臓の役割です。
この働きは非常に重要です。もし肝臓がなかったら体中に毒が蓄積してしまい、とても健康を維持することができません。
他にも肝臓は数百の働きを担っていると言われ、これほどの多目的な内臓は他にありません。
ですので肝臓にはなかなか休む暇がなくとても多忙です。そのうえ体中から集められる有毒物質によって、常にダメージにさらされる過酷な臓器でもあります。
それでも肝臓は耐え続けるタフさを持っていて、滅多なことでは悲鳴を上げることがありません。
つまり初期の肝炎や、脂肪肝程度で症状が出てくることはあまりなく、これこそが肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。
肝機能値は肝臓の負担を知るバロメーター
「沈黙の臓器」である肝臓の働きが低下して体の不調を感じるとき、それは相当な状況です。もしかするとすでに肝臓病がだいぶ深刻なところにまで進行している可能性があります。
そうなる前に肝臓の異常を察知することが非常に重要であり、そのときに役立つのが血液検査で知ることができる肝機能値です。
例えばALT(GPT)という検査値がありますが、もしそれが高くなっているときは、肝臓がダメージを受けていて、少し壊れ始めていることを示唆しています。
ALP(ALKP)が高ければ、肝臓と関連性の強い胆道系(胆管、胆嚢)にダメージが及んでいるかもしれないと、早い段階で推測することができるのです。
肝機能値を高いままにしておく危険性
肝臓の働きに異常があるとき、すなわち肝臓病と呼ばれる状態には、初期から末期までの段階があります。
すこし肝臓が腫れているような慢性肝炎から、脂肪の蓄積が見られる脂肪肝といった比較的初期の段階の肝臓病は、治療がうまくいけば改善してくれます。
しかし治療が功を奏さず、肝臓が徐々に線維化する「肝硬変」にまで進んでしまうと、治療で元に戻すことは非常に困難となってしまいます。
肝硬変になると肝臓が固くなってくるだけでなく、その機能も失われてしまう肝臓病の末期状態です。さらに肝硬変は肝臓がんの発生要因ともなりえるため、その前の段階で手を打たなくてはなりません。
「症状がないから、きっと大丈夫だろう」と油断しすぎず、「症状が出てからでは遅い」と考えていきましょう。
肝臓はそのタフさゆえ、症状から状態をうかがい知ることは困難です。
1つの治療法に賭けるより、メリットの多い相乗効果を狙う
治療を受けているのに肝機能値が思うように改善しない、もう同じ薬を何ヶ月も飲んでいるのに徐々に数値が上がってきているという状況は、その先のことを考えると少し怖いことです。
肝臓が炎症を起こし続けているうちに、少しずつ線維化が始まってしまう危険性があるためです。
薬の効果がいまいちだと思えるとき、もし投与量を数倍に増量してもおそらくメリットは得られません。
たとえ効果が上がったとしても、副作用などによって増加するデメリットで打ち消されてしまいます。
それよりも他の方法も検討し、良さそうだと思えるものを取り入れていくべきです。
なぜならば、おそらくほとんどの肝臓病の原因はひとつではなく、複数の要因が絡み合うことで発症しているためです。
複数の要因に対して、対処法も複数用意することは理にかなっていると言えるでしょう。
そして相性の良い方法を組み合わせたときには、「相乗効果」が得られやすくなります。
これは特に肝臓治療などの難しい治療で大切な考え方です。実際にメリットが相乗的に高まって、1+1が2ではなく、3や4になることはけして珍しいことではありません。
組み合わせによっては、お互いの悪い点まで打ち消し合ってくれて、さらにメリットが高まることもあるでしょう。
以下に、いくつかの基本的な方法を紹介しています。
できれば早い段階から取り組んでいただき、不安のない将来の生活に繋げていただきたく存じます。
ご愛犬ご愛猫の健康を掴み取りましょう。
肝臓治療を成功させる秘策は「五本の槍」
肝臓を悪くしている要因が複数であった場合、当然ながら対処法も複数用意すべきという考えは理にかなっています。
私はこれを恥ずかしながら自分の名字を冠して、「岡田式五本槍治療」と名付けていて弊社のお客様たちにお伝えしております。
以下は日頃からお客様への個別サポートでお伝えしているおおまかな内容です。
電話では30分も1時間もかけて伝える内容をかなり簡潔にまとめましたが、それでも概要を知っていただくだけで何かしらのヒントになると思います。
なおポイントは、これらを同時に実施することです。
- 1本目の槍:動物病院の上手な利用法(相手に利用されない)
- 2本目の槍:高品質サプリメント※
- 3本目の槍:肝臓の炎症を抑えるためEPAオイルとDHAオイル
- 4本目の槍:肝臓ダメージを軽減する腸内環境の改善
- 5本目の槍:肝臓の回復速度を高めるためのマインドセット
※健康サポートとして
多くの方は、1つ取り組みを始め、たいていは効果がなかったと言ってまた別の取り組みを始めるのですが、これでは難しいと思います。
正直なところ、1つの取組みだけで短期間のうちに目に見えるような結果を出すことは困難で、もしそれが役立つ取り組みだったとしても、プラスだったのかマイナスだったのかを判別できずに終わってしまう可能性が高くなります
せっかくの良い取り組みもこれでは一本槍となるため効果は弱く、なかなか成功しません。
岡田式五本槍治療もプラス効果の高い取り組みの集合体ではありますが、もしバラバラに実施すればそれぞれ10%程度の効果しか得られないと考えていただいて良いでしょう。
同時並行でやっていただくことで効果は積み重なり、目に見えるほど大きくなってくるのです。
では、1本1本の槍について、すこし解説を加えていきます。
【1本目の槍】動物病院を活用する
多くの方は、動物病院に利用されています。
利用しているようで、実は利用されています。
「知識がないから自分には無理だ。」
「薬は一生やめられないと言われている。」
「生まれつき肝臓が小さいと言われ、任せるしかない。」
もしかするとあなたにも思い当たるフシがあるのではないでしょうか。
ペットとあなたの関係に割り込んでこられるのは仕方ありませんが、どんどん距離が遠くなり、治療に関しては先生に従うしか無いという状態が作り出されてしまうケースをよく耳にします。
本来、動物病院は私たちが選択し、私たちが活用するものです。
過度に依存してしまったり、丸投げしてしまうことは、治療上の観点からだけでなく、愛犬ご愛猫の気持ちからしてもおすすめできません。
無理と思い込んでいる知識不足も、その気があれば解決できる問題です。
もし動物病院に効果的な肝臓治療法があるならば別ですが、実際にはそうではありません。
治療は薬物治療に限られるうえ、多くのケースで使われるウルソやスパカールの効果はたかが知れています。
薬剤師である私は人の治療として何十万錠という肝臓病薬を調剤してきましたので、説明書のデータとは違った実感の効果を知っています。
そしてそれは犬猫であっても、やはり同じでした。
血液検査値が3回連続で改善していないとき、その薬は効果なしと結論付けるのが私の感覚ですが、多くの場合はだらだらと投薬が続けられています。
だからといって「意味のない薬を飲ませるな!」と動物病院に怒鳴り込むのは得策とは言えません。
自分ではできない血液検査などで、どうしてもお世話になる場面がありますから、持っているコミュニケーションスキルをフル活用して上手に付き合いましょう。
相手も人間ですから、気持ちのよいお客さんには誠意ある対応を、それなりのお客さんにはそれなりの対応をとりがちです。
腹を割って話せるほどになれば、治療効果が出ているのか否かの正直な意見を聞き出し、もし無駄とわかれば薬や療養食はほどほどにしてもらいましょう。
これが動物病院を利用するということです。
大切なご愛犬、ご愛猫の肝臓がかかっているのですから、「先生と話すのが苦手」などであきらめるところではありません。
しかし実際には、とにかく怖い先生、何かを尋ねると「何を生意気な」と睨まれる、まったく視線を合わせてこない、そんな先生がいることも聞いています。
もし先生のコミュニケーションスキルが低くて困っているのであれば、こちらのスキルで盛り上げてあげるか、どうにもならない場合はさっぱり転院してしまうほうが将来を考えるとメリットが多いかもしれません。
ちなみに獣医師を1から100レベルにランク付けするとしたら、「腕が良い」に続いて、「説明が正確で丁寧」は重要な評価基準だと思います。
なおウルソやスパカールの効果が弱いと言っても、おそらくゼロ効果ということはありませんし、比較的副作用の少ない安全な薬です。
お時間があれば、こちらもご参照ください。
薬に依存してしまうのは良くありませんが、「5本中の1本槍にすぎない」とマインドを切り替えて使っていけば良いのです。
【2本目の槍】健康サポートとしてのサプリメント
健康状態の良し悪しは、治療に影響を与えます。
肝臓病の代表的な治療薬といえば、さきほどのウルソやスパカールが挙げられますが、残念ながらこれらはお世辞であっても良く効く薬と言えません。
これらは副作用が少ないために、つい漫然と使いがちですが、反応もないのに薬物治療に依存しすぎていると先が苦しくなってきます。
【3本目の槍】抗炎症作用を有するEPAオイル、DHAオイルの活用
私の個別アドバイスでたいていの方におすすめしているのが、このEPAオイルとDHAオイルの摂取です。
肝臓病に限らず多くの病気に対して有用性があること、そして極端な油抜きで寿命が低下しかかっている犬猫たちが多いこともあり、本当に多くの方におすすめしてきました。
オメガ3系オイルの中でも特にEPAやDHAオイルには高い抗炎症作用が認められており、肝炎つまり肝臓の炎症に対してもこれを積極的に活用すると良いです。
なお亜麻仁油やえごまオイル(主成分:α-リノレン酸)を与えているから十分だと考える飼い主様がいらっしゃいますが、それらは犬猫たちの肝炎には役立ちにくいと考えられるために私はおすすめしていません。
また肝臓には良質なタンパク質が良いと知り、鳥のささみ肉や胸肉、カンガルー肉や馬肉、ラム肉ばかりを与えていると、大事な油は必ず不足します。
油が入っていたとしても、過剰摂取で肝炎を悪化させかねないオメガ6系オイルばかりですから、必ず別途オメガ3を加えましょう。
なおEPAやDHAを豊富に含む食材は、海の魚です。
脂の乗った魚は治療の妨げになると誤解している方が多いために先に補足しておきますが、私がお伝えしているトッピング法で治療に差し支えるほどの油量になる心配はありません。
それでも心配な方は、手持ちのドッグフードと脂質量を比べてみれるとすぐにわかるでしょう。
EPAやDHAを不足させたまま肝臓を治そうというアイデアはちょっと困難です。
むしろ寿命短縮のリスクを高めかねませんので、余程の黄疸や、肝性脳症を起こすような状況でなければ積極的に与えるべきです。
【4本目の槍】腸内環境の良し悪しが治療効果を左右する
腸内環境と肝臓の関わりについてあまり知られていませんが、ぜひ知っておいてください。
文字での説明に限度がありますが、あなたなりの取り組みに結びつけていただければ嬉しいです。
まず1つ、腸内環境が悪いときのウンチやおならをイメージしてみてください。
犬でも猫でも人間でも、腸内環境が悪いほど臭いがキツくなってきます。
臭いの成分は、硫化水素やアンモニアなどのガスであり、それらはタンパク質の腐敗にともなって発生してきます。
肉ばかり食べている人のおならは臭く、野菜をしっかり食べる人のおならがあまり臭わないのは、みなさんもご存知でしょう。
その臭いのガスは、たいていは有毒ガスでもあり、これらの一部はおならとならずに腸管から吸収されてしまいます。
血液に乗って全身を回り続けられると問題があるために、それを必至に処理してくれるのが肝臓です。
本当にありがたい肝臓ですが、少し考えてみてください。
肝臓が悪いところに、そういった有毒ガスの処理までさせていては、治せるものも治せなくなってしまいます。
そしてもう1つ、腸内環境の良し悪しによって、薬やサプリメントによるメリットが変化してしまう可能性があるということです。
たいていは腸内環境が悪くなっているほど治療メリットは得られにくくなり、治療全体の効果を低下させることになります。
私が五本槍の1本として加えているのも、他の治療効果のベースアップが期待できるためです。
なお人間ではあきらかですが、犬猫たちの場合であっても良好な腸内環境が健康寿命を延長させると考えて間違いないでしょう。
我々と同じように発酵食品、食物繊維、オリゴ糖、イヌリンといった腸内細菌を喜ばせる食材を、トッピングで良いので加えることをおすすめしています。
【5本目の槍】心の持ち方が肝臓の再生スピードを左右するという事実
5本目の槍は、個別アドバイスでもっとも時間を割いて説明する大切な知識です。
簡潔に伝えることになりますが、すぐに実践できることですからぜひとも忘れないようにしてください。
まず肝臓が再生可能な臓器であることを思い出してみてください。
肝臓細胞の再生スピードが破壊スピードを上回っていれば、肝臓全体で見たときに回復傾向にあるといえます。
その再生スピードは一定でなく変化するものだということは何となくイメージできると思いますが、実はその変化は時間をかけてゆっくり変動するものではありません。
1日の中で激しく変動するものであり、その差は10倍にもなるのだとイメージを書き換えておいてください。
なぜそんなに激しく変動するかといいますと、実は肝臓の再生スピードが犬猫たちの感情の起伏の影響をもろに受けてしまうからです。
犬猫たちが、不安がっていたり、外敵を警戒していたり、騒音や臭いにストレスを感じていたりして、交感神経が高ぶっている状態を私は「攻撃モード」と呼んでいますが、この状態では再生スピードが著しく低下してしまい肝臓の治りが良くありません。
逆に心底リラックスした状態を私は「治癒モード」と呼び、副交感神経優位の状態を導き、肝臓の再生能力を引き出すことが可能となります。
だいぶ短縮して簡単に言ってしまいますと、ご愛犬やご愛猫を安心させること、喜ばせることは治療に好影響を与えます。
「うちはほとんどストレスはかけてません。しつけもほとんどしませんし。」と言わる方も、深掘りしてヒアリングしていくとストレスに関してけっこう無頓着な部分が見えてくることがあります。
私たちはどうしても人の目線で犬猫たちのストレスを考えてしまいます。
ポイントはしっかりと犬猫の目線に合わせて、すべてを点検してみることです。
彼らは凄まじい嗅覚と、するどい聴力に頼って情報分析する動物だということを思い出してもらえば、視覚に頼った私たちに理解しづらかったストレスが見えてくるはずです。
そして犬猫たちの最大の関心事である、あなたの感情が肝臓の回復に影響しています。
これは1000人以上の相談経験からも、科学的な見地からも言えることです。
まずは自分自身をポジティブにするマインドセットから始めてみましょう。
マインドセットと肝臓再生の関わりの説明は少々長く、また別の機会に詳しく書くつもりです。
どうしてもお急ぎであれば個別にお答えしますのでご連絡ください。
【その他】誤った取り組みが治療の効果をキャンセルしている
ここまでで岡田式五本槍治療についてお話してきましたが、誤った取り組みによって治療効果がキャンセルされ、その他の良い取り組みが台無しになってしまっているケースにたびたび遭遇します。
なかでも本当に気をつけてほしいことが肝臓サポート食に対する勘違いです。
肝臓サポート食は、一般的にタンパク質の割合を低く調整してあります。
肝臓治療ではタンパク質の割合を高めるべきなのですが、なぜこのような矛盾が生じるのでしょう。
実はこれは矛盾でも何でもなく、基本的に肝臓サポート食では肝臓は良くならないという事実を多くの方が知らないだけのことです。
大切なことなので間違わずに記憶して欲しいのですが、肝臓サポート食は肝性脳症、つまり肝臓病末期のアンモニアガスによる脳障害を防止する目的の食事です。
それを肝性脳症の心配がない犬猫たちに与え続けていれば、肝臓の健康に良くない影響を与える心配があります。
余程の肝硬変などでなければタンパクはしっかりと摂らせておくほうが良いと考えます。
肝臓を健康に導く新しいアイデア
肝臓を健康にしたいときに試していただきたいアイデアがあります。
食事の工夫やサプリメントを上手に使っていく方法は、安全性が高いだけでなく、実際に結果につなげている動物病院もあります。
とくに薬や療養食を何ヶ月も続けているのに状況が良くならないとき、ぜひ参考にしていただきたく存じます。
もちろん予防にも使えるアイデアです。