せっかく動物病院からもらってきた血液検査の結果表
大切だとわかっていてもズラリと並んだ数字に「意味がわからない!読みたくない!」
そのままタンスの引き出し直行になっていませんでしょうか?
たった1枚の血液検査表でも、本当はたくさんの情報が詰まっています。
もし自分で血液検査表を読むことができたら、きっとご愛犬ご愛猫の健康維持に役立ちますよね。
私もぜひ応援させていただきたいので、これだけはチェックして欲しいと思う検査項目を5つだけピックアップしてみました。
血液検査値を読むにあたって
血液検査はご存知の通り、注射器で抜いた少量の血液を分析する検査方法です。
犬猫たちへのダメージが少なく、手軽であり、短時間でたくさんの正確な情報が手に入る有用性の高い検査です。
しかしながら、せっかく手に入ったデータもその意味がわからなければ、ただの数字の羅列です。
獣医師が毎回詳しく解説してくれれば良いのですけれど、実際にはなかなかそうもいかないでしょう。
血液検査値からより多くの深い情報を得るためには、犬猫たちの体の仕組みの知識、それと実際に血液検査表を読む経験が必要です。
ですからいきなり深く読み解こうとするのは正直なところ無理かもしれません。
まずは大切そうな検査項目だけに絞って、実際に検査表を見てみることから始めましょう。
どの項目に絞るかは、今回は私におまかせください。
だいぶ省略して書いたつもりですけれど、それでもボリュームが出てしまいました。
その中から1つでも得るものがあれば、それはこの先ずっと役立つ知識となるはずです。
なお記載してある基準値はあくまで目安であり、動物病院によって異なりますから気を付けてください。
白血球数(英略:WBC)
白血球数は、感染症が起きているか否かをチェックするときに、もっとも重要となる検査項目です。
本当にとっても大切な検査項目ですから、スルーしてはいけません。
なお白血球とは、血液を流れながら身体に入ってきた細菌やウイルスを破壊したり、がん細胞を叩くことを仕事にしてる細胞です。
ですので、ここでは白血球数といったら免疫細胞の数だとお考えいただいて大丈夫です。
免疫細胞は、外敵の侵入によって増加する傾向がありますから、白血球数が高いときは感染症を起こしているだろうと推測することができます。
ウイルス感染のときはヘマトクリット値などが下がってくることがありますので、合わせて分析することで原因をあぶり出していきます。
CRP値の上昇を伴うならば、感染により炎症が引き起こされていることを疑います。
感染症の他にはレアなケースですが、リンパ腫の可能性もあります。
リンパ腫は白血球のうちのリンパ球と呼ばれる免疫細胞が侵されてしまう病気で、白血球数が少なくなったり多くなったりします。
なお猫のリンパ腫は猫白血病ウイルス(FeLV)によって引き起こされるケースが多々あるため、血液検査からはウイルス感染と同じような傾向がみられることがあります。
処置としては、まず細菌感染症が疑って抗生物質が処方されることが多いでしょう。
抗生物質が反応すれば下がることが多く、下がらない場合もガックリせずに違うタイプの抗生剤を試しつつ、別の病気も疑うという次のステップに移ることができます。
ちなみにウイルス感染症に対して抗生物質は無効です。
なのに漫然と使い続けているケースが散見されますから、白血球数の改善度から薬を使うべきかどうかを判断しましょう。
可能性としてリンパ腫が残ってしまったときは、さらに生検と呼ばれる詳しい検査によって本当にリンパ腫かどうかを調べます。
これを確定診断と呼び、抗がん剤治療を始めるのであれば、ぜったいに省略できない検査です。
白血球数が低すぎるときは、白血球を作る骨髄の働きを低下させてしまう病気か、薬剤の副作用の可能性を疑うことになります。
感染症にかかったばかりの急性期にも白血球数が少なくなることがありますが、時間が経つと今度は高めになってくる傾向があります。
白血球数を減してしまう代表的な薬剤は、ステロイドのような免疫抑制剤、骨髄機能を破壊してしまう抗がん剤などがあげられます。
中断もしくは減薬によって白血球数が改善するかの観察が原因究明の方法です。
ただ上記の薬剤は原因究明する必要もなく、経験から白血球数を低下させることが明らかです。
治療と副作用の兼ね合いから妥当な投与量を見出していくべきでしょう。
白血球数の基準値(参考)
- 犬:6000~17000
- 猫:5500~19500
赤血球数(英略:RBC)
赤血球は、血液中に存在する細胞で、肺で受け取った酸素を頭のてっぺんからつま先まで届けてくれる運搬役です。
そのため赤血球が足りなってくると、身体がだるくなったり、疲れが残りやすくなります。
つまり赤血球数が少ないときは、貧血が起こっていると考えてください。
赤血球の検査項目が低くなってしまう原因は多々ありますが、以下のようなものが知られています。
- 腎臓病からの貧血
- 再生不良性貧血
- 骨髄機能の低下
- 骨髄にダメージを与える薬
薬が原因なのかどうかは、投薬を中止してみて再チェックすることで突き止めることができるでしょう。
そのときの回復速度は、どれだけ骨髄が痛めつけられてしまっているかによって異なります。
骨髄のダメージが軽度なほど良好な回復を見せるでしょう。
腎臓病、再生不良性貧血といった病気は治療が簡単ではありません。
原因がわかったとしても治療は難航することが予想されます。
逆に赤血球数が高いときは、まっさきに脱水が疑われるでしょう。
体内の水分が不足することで血液が濃くなり、赤血球がひしめきあうようになるので、数値は当然のこと高くなってきます。
脱水状態ならば水分を入れれば改善してきますので、飲水量を増やすことが最良の対応策となります。
動物病院では飲水よりも効果的であるとして皮下補液、すなわち点滴によって大量の水分を体内に流し込むでしょう。
水を飲んでくれないとき、少量の塩分補給も試すとよく飲むかもしれません。
「犬や猫に塩分は危険!」と決めつけてしまっている飼い主様が多くてたいへんなのですが、生理食塩水を点滴すればどれだけの塩分が体内に入ってくるかをイメージしていただくと、本当の対処法が見えてくるでしょう。
赤血球数の基準値(参考)
- 犬:550万~850万
- 猫:750万~1050万
肝臓機能の項目GPT(別称:ALT)
GPTは肝臓の異常を知るときに、もっとも重要な検査項目です。
似たような名称のGOT(AST)という項目がありますが、こちらは心臓病などの肝臓以外の病気でも高値となってしまうことがあります。
GPT値が高いということは肝臓が何かしらの障害を受けていることを示しますので、考えられる原因には次のようなものがあります。
- 肝炎、脂肪肝、肝硬変
- 肝臓がん
- 胆汁の流れが悪い
- ステロイド剤(プレドニゾロンなど)の連用
- 抗真菌剤(イトリゾールやケトコナゾール)の連用
- 抗がん剤
- 人の鎮痛剤、風邪薬の誤飲
- 農薬、化粧品、塗料などの誤飲
GPTは肝臓細胞に閉じ込められている特殊な酵素であり、本来は血液中に存在しません。
ですので血液検査で測定されるGPTは、もともと肝臓にあったのに血液中に漏れ出してしまったGPTです。
肝臓が壊れるときにGPTは血液中に漏れ出します。
つまり異常に高い数値を示したときは、肝臓病や肝臓が障害されていることを推測できます。
ちなみにGPTの数値は0になることはありません。
これは健康な犬猫たちであっても、肝臓が毎日少しずつ壊れていることによります。
意外とご存じの方は少ないのですが、肝臓は毎日壊れて再生するという特殊な性質を持った生まれ変わる臓器なのです。
なおGPTだけにばかり注目していても、肝臓が悪くなっていることはわかりますが、原因に近づくことはできません。
GGPやALP、ビリルビン値(TBIL)の数値も合わせるべきですし、さらにアルブミン値(ALB)、クレアチニン値(CRE)やBUN、白血球数などを組み合わせて評価することで原因究明への道がひらけてきます。
すでにGPTの異常値が出ていて治療中の方はこちらもご参照ください。
GPTの基準値(参考)
- 犬:23-89
- 猫:29-84
腎臓機能の項目クレアチニン(英略:CRE、CREA、Cr)
腎臓の働きを予測するときに、最も参考にすべき血液検査項目がクレアチニンの値です。
クレアチニンは体内で作られるたんぱく質の一種で、本来は腎臓で作られる尿中にどんどん排泄されていきます。
ですのでクレアチニンの値が高くなるときは、腎臓のフィルター機能が壊れていて、クレアチニンが体内に取り残されやすくなっている状況が、可能性の1つとして挙げられます。
クレアチニンが高いとすぐに「腎臓病だ」「腎不全だ」と決めつけがちですが、それは早まった考えです。
壊れた腎臓は治らないとされているにも関わらず、実際には無治療でもクレアチニン値が下がってくるケースが多々あります。
なぜそのようなことがあるかというと、クレアチニンは腎臓の機能と関係なく上下することがあるためです。
クレアチニンが高くなる原因、傾向
- 腎臓病、慢性腎不全
- 検査に運動した
- 検査の前日に激しい運動をした
- 脱水気味で検査を受けた
- 他の犬猫たちに比べて筋肉量が多い
クレアチニンに限ったことではありませんが、血液検査はいつも同じような条件で受けないと、検査結果の信頼性が低下してしまいます。
たっぷり水を飲んだ後や点滴後は血が薄まるので多くの検査項目が低めに、逆に水を我慢しての血液検査は血が濃くなりますから多くの検査値が高めに出る傾向があります。
これで病気だと言われ、不要な治療が始まってはいけません。
クレアチニンの基準値(参考)
- 犬:0.4~1.4
- 猫:0.6~2.0
栄養状態を知るアルブミン(英略:ALB)
アルブミンはざっくりと言えば、犬猫たちの栄養状態を知る数値です。
血液を流れるタンパク質の1つがアルブミンであり、タンパク質が不足しているときに低くなる傾向があります。
一概には言えませんが、肉や魚をしっかり摂っていると良い数値が出やすく、タンパク質がスカスカのフード、たとえば肝臓サポート食などを与えていると下がりやすくなります。
アルブミンが高すぎて問題になるというケースはあまり見かけず、問題になるのは低すぎるケースです。
低アルブミンすなわち栄養失調の状態では、薬の効果が下がったり、手術後の回復が悪くなったり、怪我が治らなかったりと、治療の効果が全体的に低下してしまいます。
ちなみに程度の差こそあれど、多くの薬はアルブミンのおかげで体中に運ばれ、目的の効果を発揮します。
アルブミンが足りなければ、薬の効き目は当然ながら低下し、望まぬ副作用ばかりを得ることになるでしょう。
アルブミン値が低くなるケース
- 栄養状態の悪化、栄養失調
- がん(腫瘍)
- 感染症、発熱性疾患
- 腹水、胸水にアルブミンが奪われている
- ネフローゼで尿中にアルブミンが漏れ出している
アルブミンの値は、基準値に収まっていれば大丈夫とお考えにならず、基準値内でも高めになるように意識しておくことをおすすめいたします。
私の感覚では最低でも3.0は欲しいところです。
それは病中であっても、健康なときであっても目指して欲しい数値です。
アルブミンは肝臓内で作られるために、検査結果が低いときはGPTなどの数値を見ながら肝臓病や肝臓障害が起きていないかチェックすべきです。
また肉をしっかり与えても改善が見られない場合、がん(悪性腫瘍)の存在や、腸内環境の悪化も考えるべきなので、他の検査項目と照らし合わせて原因を探るべきです。
もう1つの血中タンパクであるグロブリンとの比率を非常に重視している動物病院もあります。
その比率はA/G比と呼ばれ、特にがんの治療中にチェックすべき項目です。
低くい場合は予後が悪くなる傾向があるため、なんとしても改善させるためにさまざまな方法で取り組むべきです。
アルブミンの基準値(参考)
- 犬:2.6~3.9
- 猫:2.1~3.3
血液検査値の正しい読み方、間違った読み方
おそらくみなさんの血液検査値には、ひとつひとつの項目に「基準値」「高いときの病気」そして「低いときの病気」と書いてあるかと思います。
ついそれらと照らし合わせて、「やった正常だ、えらいぞ!」「こっちは異常か、病気だったら悲しいね・・・」と1つの項目ごとに一喜一憂してしまうお気持ち、よくわかります。
ですが残念ながらそれでは「木を見て森を見ず」の間違った読み方になってしまいます。
本来得られるはずの情報のうち半分も得られていないでしょう。
正しい読み方では、複数の項目を縦断して、合わせ技で読み解いていきます。
今回は検査表を読み解くための第一歩ですから良いのですが、検査値から最適と思われる治療法に結び付けるときには、一枚の検査結果表からどれだけの情報を得られるかが勝負となってきます。
もちろん容易に手に入る情報、つまりご愛犬ご愛猫の年齢や体つき、毛並みや毛艶、おしっこやウンチの様子は、検査結果の裏付けともなる大切な情報になりますから、数値ばかりにこだわれば良いというわけではありません。
また今回の検査結果だけを穴が空くほど熟読するよりも、前回分や前々回分と比較することで、見えにくかった情報に気づきやすくなります。
このようにして、得られる情報を3次元的に増加させていくわけです。
書くのは簡単ですが、私もまだまだ勉強不足で修行中の身です。
もっとセミナーに参加したり、獣医師に直接勉強を教えてもらって、今以上にみなさんのお役に立てるよう頑張ります。
それでも現時点でお力になれることがあると思います。
特に血液検査で腫瘍や肝臓病が疑われるようなときは、いくつかの良いアイデアをお伝えできます。
もし行き詰まってしまっているのでしたら、どうぞご相談ください。
あまり悩んでいると、不安がご愛犬やご愛猫に伝わります。
言い忘れていましたが、ストレスや不安といったメンタル的な要因も、血液検査の結果に大きな影響を与えることがあります。
肝臓を健康に導く新しいアイデア
肝臓を健康にしたいときに試していただきたいアイデアがあります。
食事の工夫やサプリメントを上手に使っていく方法は、安全性が高いだけでなく、実際に結果につなげている動物病院もあります。
グラフ:動物病院によるサプリメントの健康サポート力評価
とくに薬や療養食を何ヶ月も続けているのに状況が良くならないとき、ぜひ参考にしていただきたく存じます。
もちろん予防にも使えるアイデアです。