著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール
犬猫たちの肺がん(肺腫瘍)は、他のがんに比べて非常に治療が難しい病気です。
とくに別の場所から転移してきた肺がんは、その時点で末期がんであり、完治を目指す治療法がありません。
もしご愛犬ご愛猫が肺がんになってしまったとき、延命のためには免疫力を引き出す取り組みが必要不可欠です。
免疫を下げてしまう要因を排除するとともに、免疫を改善させる取り組みを開始してください。
犬猫の肺がん(肺腫瘍)の特徴や症状
犬猫に見られる肺がんは、肺に発生するがん(原発性肺腫瘍)と、肺以外の場所から飛んでくるがん(転移性肺腫瘍)があります。
肺は生命を維持するために欠かすことができない臓器のため、原発性と転移性の違いに関わらず肺がんは危険な病気です。
一般に肺がんは進行が早いケースが多く、気がついたときには末期状態になっていることが珍しくありません。
もし初期で見つかり腫瘍の切除手術が可能だったとしても、再発する可能性が高く、延命につながらないこともあります。
【肺がんの症状】咳や息切れなどの呼吸器症状が多い
肺がんは他のがんに比べると、症状が早めに現れます。
初期がんであっても、次のような症状が見られることがあります。
- 咳
- 呼吸の荒さ
- 息切れ
これらの呼吸器症状は必ず初期に見られるとは限らず、相当進行した末期肺がんになるまで現れないこともあります。
安静時よりも、散歩や運動の後に見られやすいので注意して観察してください。
肺がんが進行してくると、徐々に全身症状が現れてきます。
進行肺がんの主な症状を次に挙げます。
- 長引く咳、安静時から呼吸が粗いなどの強い呼吸器症状
- 胸水の貯留
- 痛み
- 元気の低下、運動量の低下、だるさ
- 食欲の低下、まったく食べない
このような症状があるときは、すぐに動物病院を受診してください。
肺がんかどうかを症状から見分けることはできませんが、危険な症状であることは確かです。
上記のような症状は、肺炎などの感染症でも見られることがあります。
その場合は抗生剤やステロイド剤で急速に回復する可能性がありますので、けして様子見をせずに早めに検査を受けたほうが良いです。
転移性の肺がんとは
他の場所で発生したがん細胞が肺にたどり着いて増殖し、腫瘍を形成したものが転移性肺がんです。
体の中でも、とくに肺はがんの転移が多い臓器ですが、それは次のような理由からです。
- 酸素を交換する肺胞の血管はとても細く、血液に乗って流れてきがん細胞が引っかかりやすい。
- 肺には大量の血液が循環しているため、がん細胞が到達しやすい。
同じようなことは肝臓にも言えます。
肝臓転移も肺転移と並んで多く見られます。
転移性の肺がんが見つかったとき、それは末期がんであることを意味します。
がん細胞が血管内に入り込み、すでに肺以外の全身に広がっていると予想されるためです。
がん細胞がたどり着いた肺の腫瘍のことを転移巣と言い、もともとがん細胞がいた場所のことを原発巣といいます。
代表的な原発巣として、乳腺があります。
乳腺腫瘍(乳がんのこと)ではほぼ必ずレントゲン検査を受けますが、それは肺転移の有無を確認することが主目的です。
乳腺腫瘍自体は手術により完治を狙えるがんですが、肺転移が見つかってしまうと治療は延命目的もしくは対処療法にとどまります。
悪性リンパ腫による肺腫瘍も、肺転移と考えることができます。
血液のがんとも呼ばれるリンパ腫は発生当初から全身に広がる性質を持っていて、容易に肺にたどり着きます。
リンパ腫に関してはこちらのページもご参照ください。
【肺がんの手術】腫瘍切除は高度で難しい
レントゲンやCT検査などで肺腫瘍が見つかったとき、腫瘍の切除手術は物理的には可能です。
腫瘍が肺の一部に限定されるとき、手術は検討されるでしょう。
次のようなときは手術を考えてみる価値があります。
- 肺内の腫瘍が一箇所に集まっている。
- 腫瘍の位置が肺の縁に近い。
- 原発性の肺がんである。
- 肺の外に転移していない。
- 手術や全身麻酔に耐える体力がある。
- 動物病院に人工心肺装置などの設備が整っている。
- 獣医師の肺がん手術経験が豊富である。
もし1つでも当てはまらないようであれば、手術を受けてもあまりメリットを得られないかもしれません。
手術では、少なくとも目に見える腫瘍をすべて取り除くべきであり、逆に取り残すことがわかっている場合は損をすることのほうが多くなります。
肺内の腫瘍が広範囲に散らばっているとき、肺の中心部に腫瘍があるとき、とくに両肺にまたがっているときは、すべての腫瘍を切除することは難しいでしょう。
もちろん目に見えないがん細胞も散らばっているはずですので、手術が大成功してもしばしば再発してしまいます。
また肺がんの手術には高度な設備と技術が必要です。
肺は呼吸のたびに大きく収縮するため、通常の腫瘍切除手術とは難しさのレベルが違います。
一般的には呼吸を停止させている間に腫瘍を切除し、呼吸を再開させて胸を閉じます。
そのために全身麻酔に加えて、人工心肺装置が必要となるために難易度が上がります。
人の場合はダメージの少ない胸腔鏡(内視鏡)による手術がありますが、さらに高度な技術が求められます。
犬猫に実施されたケースはあまり聞きません。
また手術が成功したとしても、短期間のうちに別の腫瘍が成長して再発するケースが見られます。
これは大きな腫瘍を切除したことをきっかけに、目に見えないほど小さかった腫瘍が急成長してしまうためです。
【抗がん剤治療】メリットよりデメリットが多くなりがち
再発防止の目的で、手術の後に抗がん剤治療(術後化学療法)が追加されることがあります。
腫瘍の切除手術が無理なときにも、抗がん剤が提案されることがあります。
抗がん剤の効果は全身に及び、肺に広がる目に見えないがん細胞も攻撃可能です。
理論的には良い方法に思えますが、実際のところは次のような理由によりなかなか良い結果が得られません。
- 肺がんはあまり抗がん剤が効くがんではない。
- 抗がん剤による免疫低下が、余計にがん細胞を成長させる。
- 感染症が起こりやすくなり、致死的な肺炎などを誘発してしまう。
抗がん剤治療というものは、そもそも完治を狙った治療ではありません。
延命が目的ですが、実際には一時しのぎといった感じの治療になります。
一時的な延命も達成できないことがあります。
抗がん剤のまったく反応しない肺がんも多く、その場合は副作用によって寿命が短縮することになるでしょう。
そのため肺がんへの抗がん剤治療は「損得なし」とはならず、丁か半かの博打のような治療といえます。
体力が低下しているとき、肝機能や腎機能が悪いときの抗がん剤治療は、かなり分の悪い勝負となりますので、即決せずによく検討してください。
肺がんの改善を目指すための、重要な知識
肺に疑わしい影が見つかったとき、検査結果を待つ間にもやるべきことがあります。
治療に耐えるための体力をつけること、そして免疫の働きを高めておくことです。
手術にしても抗がん剤治療にしても、犬猫たちの体力はかなり消耗します。
同時に強烈な肉体的ストレスと精神的ストレスを受け、免疫の働きは極度に低下してしまいます。
免疫力が低下したままでは、どんなに優れたがん治療を受けても効果があがりません。
治療を生き延びたがん細胞を見つけ出して叩くのは、免疫の働き次第なのです。
がんという病気の基礎を知っていただくと、免疫力がいかに大切なものかご理解いただけると思います。
お時間がございましたら、こちらの記事もご参照ください。
体力と免疫力を高める取り組みは自宅ですぐに開始できます。
まずは食事の見直し、環境ストレスの排除を考えていきましょう。
食事は糖質を制限し、タンパク質を多めにすることをお奨めしますが、あまりに肉食に偏ると腸内環境の悪化が起こります。
腸内環境の悪化はダイレクトに免疫低下を引き起こすためにお気をつけ下さい。
最近、完璧な手作り食だと思っていたのに発がん(再発)してしまったという相談を受けます。
よくお聞きすると、発がん(再発)を引き起こす要因となるようないくつかの食事の問題に気づくことがあります。
要は完璧というのは、どこかで習った食事を忠実に守っていただけということです。
徹底的な塩分制限、流行りの健康油、行き過ぎた糖質制限など、良かれと思って与えていた食品が裏目に出ているケースが少なくありません。
ご愛犬、ご愛猫に起こっている問題の糸を解きほぐすためには、シンプルな食材を組み合わせていくこともコツです。
そして飼い主様は前向きに、ポジティブに取り組むことです。
食事の栄養バランスを考えすぎるあまり、調理中しかめっ面になっているといった飼い主様も少なくありません。
食事の目標は100点にせず、80点くらいを目指すと良いです。
悩みや迷いといったネガティブな感情はご愛犬ご愛猫に伝わり、彼らの免疫の働きを半分に低下させてしまいます。
逆にあなたの笑顔、納得した選択、前向きな取り組みは、それだけで免疫アップにつながります。
人に相談するだけでも気が楽になることもあります。
近くに良いアドバイザーがいらっしゃらなければ、どうぞ私にお悩みをぶつけていただいても構いません。
肺がんはがんの中でも治療が難しい病気
がんは不治の病であると同時に、致死率の高い病気ですが、
特に肺がんが、他のがんに比べて治療が難しい病気であるという事は明らかです。
理由としては下記のようなものが挙げられます。
- 肺が生命を維持するために欠かすことができない臓器であること。
- 呼吸機能が侵されると呼吸が困難になり、他のがんに比べて生活の質が著しく低下してしまう。
- 手術は極めて難しく、手術には高度な設備と技術が必要。
- 肺がんはあまり抗がん剤が効くがんではない。
肺がんは進行が早いケースが多く、気がついたときには末期状態になっていることが珍しくありません。
肺がんの中でも別の場所から転移してきた肺がんの場合は、その時点で末期がんであり、
完治を目指す治療法がありません。
肺がんの改善を目指す方法
肺がんの改善を目指す鍵となるもの、それはすでに犬猫の体に備わっている「免疫」です。
正常な免疫は、がん細胞がどこにあっても見つけ出して攻撃してくれます。
すなわち、免疫の力を最大化する事こそが肺がんの改善を目指す方法となり得るのです。
延命のためには、免疫を下げてしまう要因を排除するとともに、免疫力を引き出す取り組みが必要不可欠です。