著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール
シクロホスファミドは、犬猫のリンパ腫治療に多用される抗がん剤です。
非常に毒性が強く、副作用を軽く見ていると命を奪われます。
揮発性があるために、犬猫の呼吸とともに空気中に拡散し、ご家族の発がん率を高めます。
治療中は必ず換気をしてご家族の抗がん剤被爆をできる限り防いでください。
揮発性の高さは、シクロホスファミドが毒ガスをヒントに開発されたことに由来します。
まさに「毒を薄めれば薬」を地で行く薬物です。
シクロホスファミドは他の抗がん剤と併用されることが多く、単独で使うときに比べて犬猫たちの身体的ダメージは格段に上昇します。
単独で使われる機会が少ないのは、あまり効かないためです。
それでもシクロホスファミドは他の抗がん剤よりもマシなのかもしれません。
何十年も前に開発された薬であるにも関わらず、いまだにシクロホスファミドの代わりになる抗がん剤は現れてきません。
重大な副作用
シクロホスファミドに限らず、すべての抗がん剤には添付文書と呼ばれる取扱説明書があります。
誰もがインターネットで閲覧することができますが、非常に読みにくいうえに難解な文書です。
またシクロホスファミドは人用に開発されたの抗がん剤であるため、添付文書中に犬や猫に使用する旨についての記載は一切ありません。
ですので正確に言えば適応外使用となり、どのような事故が起きようとも基本的に各自の責任です。
以下に紹介する副作用は、薬剤師である私が読みやすく修正したものです。
原文を閲覧するときは「シクロホスファミド添付文書」などのキーワードでネット検索するとすぐに見つかります。
肝臓が壊れる
シクロホスファミドは、容易に肝臓の細胞を破壊します。
肝臓はシクロホスファミドのような強烈な毒物が体内に入ってきたとき、自らをかえりみず体を守ろうと働くがゆえ、結果まっさきに破壊されていきます。
ALTやAST、とくにGGTといった肝機能に関わる検査値は急上昇するでしょう。
肝臓が破壊されている証拠です。
もし肝臓病のある犬猫に投与すれば、肝機能は著しく低下して命を落とすこともあります。
一か八かの賭けのような治療は、ぜったいに慎むべきです。
腎臓が壊れる
シクロホスファミドは腎臓も容赦なく破壊します。
腎臓病があればほぼ確実に悪化させるでしょう。
クレアチニン(CRE、CREA)が異常値を示すようなとき、無理をしすぎると取り返しがつかなくなります。
がんが落ち着いても一生のあいだ皮下補液生活となってしまうこともあります。
※実際にいらっしゃいます。
腎臓の機能低下が著しいときは、やはり命に関わります。
限界を突破しそうなとき、中断することをお奨めいたします。
骨髄抑制が起こる
骨髄は、骨の中にある血液成分(血球)の製造工場です。
細胞分裂の活発な場所であるために、がん細胞と勘違いしたシクロホスファミドによる攻撃に晒されます。
それはまるで誤爆や巻き添えのようでもありますが、実際には必然であり、確実に発生する副作用です。
治療中は、白血球や赤血球、血小板の数がみるみる減っていきます。
白血球は免疫細胞です。
減少すれば感染症にかかったり、がん治療が失敗する原因となります。
赤血球が減少すれば貧血になり、血小板が減れば出血しやすくなります。
たとえば出血性の膀胱炎があるとき、ほぼ確実に悪化するでしょう。
なおこの副作用は、毒ガスを吸いこんだときの変化とそっくりです。
もちろんのことシクロホスファミドが毒ガス由来の抗がん剤であることと関連しています。
この副作用は輸血で一時的に乗り切ることが可能です。
しかし、そこまでして治療を続けたとき、後はどうなるか予測することは容易です。
新たながんが発生する(発がん性と揮発性)
シクロホスファミドには抗がん剤という一面と、発がん物質という一面があります。
本来の目的はがん細胞のDNAを破壊することですが、実際にはそう都合よく生きませんのところは正常細胞のDNAにも無差別攻撃を加えてしまいます。
DNAの損傷は全身の細胞で起こり、一度にすさまじい数の正常細胞が異常細胞へと変化してしまいます。
免疫力低下の副作用とあいまって、ほぼ確実にがんを発生させます。
どのような抗がん剤にも発がん性はあるのですが、シクロホスファミドは別格であり、凶悪です。
なぜならばシクロホスファミドが揮発性を持った化学薬品だからです。
治療中の犬猫から呼気などを通じて空気中に揮発します。
つまりシクロホスファミドの怖さは、犬猫たちに新たながんを発生させるだけでなく、周囲の人々の発がん率まで上昇させることにあります。
ですので部屋の換気は冬場であっても必須です。
また尿や便、嘔吐物には高濃度のシクロホスファミドが含まれるため、手袋をして処理をするのは当然のこと、揮発による拡散を少しでも防ぐために速やかに処理しなくてはなりません。
当たり前の注意になりますが、換気をしていても妊婦や新生児は絶対に同じ部屋にいてはいけません。
発がんリスクもそうですが、成長障害が起こりかねないためです。
もしも将来に不都合が発生したとしても、だれも責任をとってくれません。
抗がん剤の発がん性は明らかなことではありますが、本当に抗がん剤によって発がんしたのかを証明することは不可能です。
繰り返しになりますが、抗がん剤治療は承諾した時点ですべての不都合が自己責任となります。
決断を急がされる場合でも、よくご家族と話し合って決めたほうがよいです。
リンパ腫についてはこちらにまとめています。
【犬と猫のリンパ腫 】症状と治療、そして寛解後の再発を防ぐ方法