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【犬と猫のがん】治療前に学ぶ基礎知識

2016年5月21日

ゴールデンレトリバー

著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール

がんは犬猫たちにとってもっとも危険な病気です。

獣医学が進歩した今でも、根本的な治療法が見つかっていない不治の病です。

 

がん細胞はもともと正常な細胞から発生するわけですから、がんの謎を解明するためには生命の仕組みを解明する必要があるということです。

そのため、おそらく完全な解明は何十年も先のことになるでしょう。

 

もちろん現在の段階でも、わかっていることがあります。

それらの知見を組み合わせて、がん予防やがん治療に役立たせることも可能です。

 

まずは、がんの性質や発がんの仕組みについて簡単に学びましょう

このページで、がんという病気についての基礎がわかると思います。

→がん改善の知識に戻る

がんとは何か

リンパ腫細胞

がんは病名であり、悪性腫瘍、悪性新生物とも呼ばれています。

大量増殖したがん細胞によって引き起こされる病気です。

 

大量増殖という点がポイントで、犬猫の体中に1~2個のがん細胞があったとしても、それはがんではありません。

だいたいですが、がん細胞が数千万個~数億個になったらがんだと考えていいでしょう。

 

ちなみに私たち人間の場合、毎日体内に数千個のがん細胞が生まれていると言われます。

日によっては数万個のがん細胞が生まれているかもしれません。

 

そのくらいの数ならば、まったくの正常範囲内です。

ちなみに毎日生まれるがん細胞ですが、免疫が見つけて破壊してくれますから安心してください。

 

なお一般的にがんと言ったとき、病気としてのがんのことです。

その他には、がん細胞の塊である腫瘍のことを指してがんと言うことがあります。

 

がん細胞とは何か

がん細胞は、がんを引き起こす原因の細胞です。

体には不要な細胞であり、増えれば増えるほど健康を害します。

 

正常細胞がルールを守りしっかりと役割を果たすのに対して、がん細胞はまったく言うことを聞かず好き勝手に暴走します。

協調性がなく、極めて自己中心的な「狂った細胞」です。

 

がん細胞の発生メカニズム

そのがん細胞も、もともとは正常細胞だったという説が一般的です。

まじめだった正常細胞が、いろいろなストレスを受けているうちに、不良のがん細胞に変化してしまうという考え方です。

 

がんを発生させてしまうほどのストレスとは、DNAを傷つけるほどのダメージのことです。

DNAにダメージを与えるものとしては、発がん性物質や紫外線、放射線などが挙げられます。

 

そのように外部から入ってくるものだけでなく、体の中で発生するものもあります。

普通に呼吸をして、食事をして、寝て、ただ生きているだけでも体内には酸化物質が大量に発生し、それがDNAを傷つけています。

 

DNAは大切な遺伝情報を収納しているため、少々のダメージなら修復してしまう素晴らしい仕組みを備えています。

とはいってもやはり限界があり、ダメージが蓄積したり、弱点を攻撃されると耐えられません。

 

そしてDNAの中にはどうしても壊れてはいけない部分があります。

正常細胞のDNAには、自分が暴走しそうになったときに起動する「自滅プログラム」が書き込まれていますが、そこが壊れされてしまうと状況は深刻です。

 

自滅できなくなった細胞は、つまり死ねない細胞です。

半永久的な命に無限増殖能力を併せ持てば、もうそれはがん細胞です。

 

がん細胞の天敵「免疫」の働き

生まれたばかりのがん細胞はひとりぼっちです。

たいていはすぐに免疫に見つかり、破壊される運命にあります。

 

免疫とは体に備わる防御システムで、毎日24時間休むことなく犬猫たちの体を監視しています。

そのおかげで、体ががん細胞だらけにならずに済んでいるのです。

 

免疫には、パトロール役、攻撃役、司令官役など、いくつかの役割ごとの免疫細胞が存在します。

それぞれが連携して効率的にがん細胞を駆逐します。

 

たいていの生物には免疫システムが備わりますが、とくに犬や猫などの哺乳類の免疫システムは高度に発達しています。

とても優秀なシステムである反面、意外とデリケートであり、たとえば嫌な気分になるだけでも大幅に機能が低下してしまいます。

 

機能が低下した状態は免疫低下と呼ばれます。

免疫低下の状態では、毎日犬猫の体に発生する数百個のがん細胞を見逃すかもしれません。

 

免疫の攻撃を逃れたがん細胞たちは、体の何処かで密かに増殖を繰り返し、やがて免疫に対抗する砦、すなわち腫瘍を完成させます。

数十万~数百万個のがん細胞がひしめく砦です。

 

がん細胞と免疫の戦いは、ある部分で「数と数の戦い」でもあります。

まだ砦くらいならば、なんとか免疫力の回復により潰せるかもしれません。

 

もし免疫低下が続いていれば、砦はいずれ城になります。

がん細胞の数が数千万~数億個にまで増えてしまえば、もう免疫の攻撃は通用しなくなるでしょう。

 

がん細胞はしばしば腫瘍を作り集まって増殖するのが好きですが、たまに血液に乗って体中に広がる性質も持っています。

 

がん細胞の親玉「がん幹細胞」の存在

がん細胞ピラミッド

がん細胞には無限増殖能力や半永久的な命があると書きましたが、実際にはその能力を併せ持っているのは、一部のがん細胞だけです。

がん細胞の親玉であり、がん細胞ピラミッドの頂点にいる「がん幹細胞」です。

 

がんの種類によりますが、がん幹細胞の数は全体の数%にすぎず、検査でも人の目でも簡単には見つけることができません。

手術をしたのにも関わらず再発するのは、このがん幹細胞を取り切れていないためです。

 

また抗がん剤に対しても高い抵抗性を持っており、現代のがん治療レベルでは手の打ちようがありません。

抗がん剤治療が始まると末端兵士のがん細胞はバタバタと倒されますが、親分のがん幹細胞は冬眠状態に入ってやりすごしてしまいます。

 

また冬眠状態のあいだに抗がん剤に慣れてしまうため、新たに生み出されるがん細胞には同じ抗がん剤がほとんど効かなくなってしまいます。

これは薬物耐性などと言われ、がんを凶悪化させる原因の1つです。

 

このがん幹細胞を叩く方法ですが、ないわけではありません。

もっとも有効と考えられるのは免疫力の活用です。

 

犬猫たちの、がんの状況

dog05

近年、犬猫たちのがんは急増しています。

人と異なり、犬猫たちの正確ながん統計データはありませんが、弊社の推測では50%の犬猫たちががんを患い、ほとんどの子が命を落とします。

 

がんに命を奪われるだけでなく、がん治療による関連死も含めて考えています。

手術や麻酔のダメージ、抗がん剤の強烈な副作用、治療が引き起こす合併症、持病の悪化によって命を失う子たちはけして公表されることはありませんが、相当数いるはずです。

 

がんの種類では、リンパ腫、乳腺腫瘍(乳がん)、メラノーマが目立って多いと感じます。

その他にも血管肉腫、肥満細胞腫など、さまざまな種類のがんが発生しています。

 

がん治療の現状

犬猫のがん治療はほとんど進歩しておらず、この先5年後、10年後も状況はあまり変わらないでしょう。

現状では、がんになってしまうと完治する可能性はあいかわらず低く、動物病院では延命させるのが精一杯という状況です。

 

一般的ながん治療は手術、抗がん剤治療、放射線治療の3つで、三大療法と呼ばれています。

三大とはいいますが、名前負けの感が否めません。

 

手術においては、今も昔も基本的には違いがありません。

腫瘍を含めてできるだけ広く深く切除しますが、多くのケースで術後の再発や転移が見つかります。

 

抗がん剤治療に関してもたいして進歩しておらず、50年前の古い薬がまだ現役で使われているような状況です。

その間にいくつもの新しい抗がん剤が開発されましたが、多くは副作用ばかりでメリットが少なく、とても特効薬と呼べるような薬は出てきていません。

 

放射線治療はそもそも犬や猫には向きません。

毎回全身麻酔をかける必要があり、本来は50回に分割して放射線照射すべきところを2~3回の照射で終えるために大した効果が得られません。

 

とくに抗がん剤治療を乱用する今の時代を、「がん治療の暗黒時代」と呼ぶ人もいます。

私もそう呼んでいます。

 

検査方法は進歩している

がん治療の進歩に比べて、がんの検査方法は格段に進歩しています。

レントゲンは当然ながら、エコー検査装置もずいぶんと普及し、なかにはCTスキャンといった高性能な検査機器を備える動物病院もあります。

 

ただし検査精度が高まっても、治せないものは治せません。

しばしば不要気味、過剰気味と思えるような、検査漬けと言いたくなるような犬猫たちの話を耳にするようになってきました。

 

日本のCT普及率は世界的にみて多すぎるくらい多く、それをもって医療先進国だと言う人もいます。

かたや実情として「医療費はどんどん増えるが、ちっとも治らない」という悲劇を生み出しています。

 

がんが増えた最大の理由

がんが増えた最大の理由は、犬猫たちの長生きです。

基本的にがんは高齢の動物に発生しやすく、逆に若い子にはあまり発生しません。

 

10歳を超えれば長寿だった20~30年前、犬猫たちの死因はフィラリアや感染症、事故などが多く、がんになる前に他界していたというわけです。

飼育環境の改善やフィラリア予防薬の普及によりそれらが克服され、治療の難しいがんがとり残されたとも言えます。

 

高齢の犬猫たちにがんが多く発生する理由ですが、主に次の2つが考えられます。

  • 加齢とともに徐々に免疫力が低下し、やがてがんの増殖を抑えられなくなる。
  • 長いあいだ食事などから摂取してきた化学物質が体内に蓄積し、免疫不良を引き起こしたり、直接の発がん原因となる。

加齢による免疫力の低下は自然なことであり、この場合の発がんは老化現象と言えるでしょう。

化学物質に関しては、近年私たちの生活の中に多種多様な化学物質が入り込んできていること、加工食品(ペットフード)が主食となったことが影響していると考えられます。

 

がんの余命について

がんの余命は本当にまちまちであり、一概に言うことはできません。

ただ一般的にがんは進行スピードが速い病気で、とくに末期になるほど加速度的に進行するという傾向があります。

 

がんの余命とは、がんができてからの時間ではありません。

発症してからの時間でもなく、検査でがんが見つかった時からの時間です。

 

治療を受けると一般的に余命が伸びる、つまり延命します。

どれほど延命するかは、がんの転移状況、大きさ、犬猫の栄養状態、治療効果など、さまざまな要因で変化します。

 

がんはとても再発しやすい病気であり、再発した場合は有効な手を打てないケースが多々あります。

ですので延命した時間というのは、おおよそ治療から再発までの時間ということになります。

※治療ダメージによる寿命短縮効果(治療関連死を含む)があるため、実際の延命時間はもっと短くなります。

 

もちろん治療を受けなくても寿命までがんに命を奪われないケースもたくさんあります。

それを「がんとの共存」と言います。

 

腫瘍やがん細胞を体に残すわけですから、とくに最初のうちは気が気ではないでしょう。

そのかわりに治療の代償である寿命短縮リスクがないため、高齢かつがんの進行が遅いケースではもっとも寿命をまっとうする確率が高いと言えるでしょう。

 

がんが怖い本当の理由

がんは不治の病であると同時に、致死率の高い病気です。

がんは次のようにして犬や猫たちの命を奪っていきます。

  • 体内で成長し、犬猫たちから大量のエネルギーを奪って衰弱させる。
  • 体内に毒素を撒き散らし、代謝異常を引き起こす。
  • 臓器に浸潤し、その機能低下を引き起こす。
  • 生命維持を司る肺や肝臓、脳などに転移して機能低下を起こす。
  • 腫瘍の成長により、胆管や気管、腸管などを押し潰す。

上記ががんの怖さの一般的な理由ですが、実はこれだけではありません。

むしろ、がんが怖い本当の理由について、私は次のようなことだと考えています。

  • がんは有効な治療がなく、どうしても無駄な治療が多くなるため犬猫たちに不必要なダメージを与えやすい。
  • 治療に結びつかない過剰気味な検査が増え、犬猫たちの寿命を縮めてしまう。
  • 適切な治療であっても、代償として犬猫たちに相当なダメージを与える。
  • 大切な終末期を治療漬けで過ごすことが多い。
  • 抗がん剤治療で、同居家族の発がん率が上昇する。
  • がん治療を受けせたことを後悔する飼い主様が後を絶たない。
  • 心労から体調を崩したり精神が不安定になってしまう飼い主様がいる。
  • 「こんな辛い別れをするならもう二度とペットは飼わない」と考えてしまう。

いま実は日本の犬が急速に減っています。

犬猫たちの死因の第一位ががんになったことと関連があるとは言い切りませんが、飼い主様のマインド変化が影響していることは間違いありません。

 

もう犬も猫も飼いたくないと考える方が増えていると思います。

何人もの飼い主様とお話をしてきて、肌で感じていることです。

 

免疫力が、がん治療を強化する

レトリバーの成犬と猫

厳しいがん治療を体力の限界ギリギリまで、もしくは限界を超えるまで続けることも、納得の上でしたら何も問題ありません。

ですが、考え方を「がんとの共存」にシフトして、余生を大切にダメージの少ない治療を選んでいくのもまた手です。

 

もしがんとの共存を意識していただけるのなら、ぜひとも免疫力を第一に考えてみてください。

それはけして諦めるということではなく、むしろ積極的に飼い主様が治療に関わっていくという意味であり、ときとして耳を疑うような良い結果が得られるものです。

 

西洋医学には三大療法しかなくても、免疫を高める取り組みはいくつもあります。

もちろん三大療法に組み合わせることも可能であり、きっと治療効果を高めるはずです。

 

私は薬剤師として、どんなに優れた治療法であっても免疫力を無視していては良い結果が得られないことをよく知っています。

ご愛犬、ご愛猫が生まれながらに持っている免疫力を上手に引き出し、活用してあげてください。

 

これは治療のみならず予防にも使える考え方です。

免疫と聞くと自然療法のよう感じるかもしれませんが、実際には先進的ながん研究から導かれたとても科学的なアイデアです。

 

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