著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール
ビタミンAは、犬にとっての必須ビタミンです。
たくさん摂りましょう!言いたいところですが、食品は選んだほうが良いです。
最初に選ぶならニンジンが良いでしょう。
レバーはヘム鉄を含み、とても良いと思います。ただし与え過ぎにはビタミンA中毒の心配があるので、お気をつけください。
もしビタミンA中毒になると、肝臓の機能が悪くなったり、吐いたり、頭痛のために元気がなくなります。
逆にビタミンAが不足していると、次のような症状が現れてきます。
- 夜盲症、目の角質化などの眼疾患
- 皮膚、粘膜の角質化
- 免疫低下
特に免疫力の低下はいろいろな病気を引き込みます。
細菌感染、ウイルス感染、そして発がんの可能性も高まってしまいます。
ご愛犬にビタミンAを安全に与えるために、このページをお役立てください。
ビタミンAとは
ビタミンAは目、皮膚、粘膜の正常な機能を保つために必要なビタミンです。
細胞の分化(正常な成長)を促し、免疫とも密接な関わりがあります。
免疫は複雑なシステムで、ビタミンAだけでコントロールされるものではありません。
ですがビタミンAが不足していると、免疫は総合的に弱くなってしまいます。
がん予防に役立つ理由
ビタミンAが「がん予防」に役立つであろうことは以前から知られていて、いくつかの研究報告があります。
もちろん多くは人のための研究ですが、犬にも当然のこと応用できます。
がんに関与するビタミンAの効能を3つ挙げると次のようなものです。
- 粘膜の正常化
- 細胞増殖の調整
- 抗酸化作用
これらはバラバラではなく、相乗的にがん予防効果を発揮していると考えられます。
それぞれについて少し解説を加えます。
粘膜の正常化
ビタミンAには粘膜を強く、丈夫にする作用があります。
粘膜といえば、鼻や口の中を思い浮かべますが、胃や腸、胆管、肺(気管支)など、がんの多発臓器に存在します。
粘膜は生きた細胞で、刺激を受け止める役割をもっています。
たとえば口腔粘膜や胃粘膜は食事からの機械的刺激を、胆管は胆汁による化学的刺激を受け止めます。
実は、刺激の繰り返しが、がんの発生原因になることがあります。
粘膜が弱くなっている場合は刺激によって慢性的な炎症が起こりやすく、発がんリスクがさらに高まります。
このような発がんのメカニズムを断つために、ビタミンAの粘膜正常化の働きは役に立ちます。
細胞増殖の調整
体内において、細胞増殖はルールに則って正しく行われています。
ルール無用で無茶苦茶に、勝手やたらに増殖する細胞、それがすなわち「がん細胞」です。
通常の細胞は、自己に異変が起こっていると感知したとき、自ら命を絶ちます。
これは細胞のアポトーシスと呼ばれる正常な現象です。
がん細胞のDNAには異変が起こっており、このアポトーシスが発動しません。
がん(腫瘍)がどんどん大きくなっていく理由の1つです。
がん細胞の中でも「未分化」と呼ばれるがん細胞は、増殖が活発であっというまに増えていきます。
一方「高分化」と呼ばれるがん細胞は比較的おとなしく、増えるスピードはとてもゆっくりしています。
ビタミンAは、未分化のがんを高分化にする作用をもちます。
これが抗腫瘍効果となり、がん予防に役立ってくれます。
抗酸化作用
前の2つに比べると、少々地味な作用かもしれません。
抗酸化作用とは、体を酸化から守る作用のことです。
鉄が酸化してサビるように、細胞もまた酸化します。
細胞内の脂質が酸化で分解されて、DNAまで傷ついてしまいます。
そうなると中に、暴走し始めたり、アポトーシスできなくなるおかしな細胞が現れてきます。
ついには、がん細胞も生まれてしまいます。
ビタミンAはこの細胞の酸化を防ぎ、がんを予防するように働きます。
同時にビタミンCなどを与えると、抗酸化作用は高まります。
しかし良くない情報もあります。
この抗酸化作用が裏目に出るケースです。
酸化を防ぐということは、ビタミンAが細胞の身代わりになって酸化されることを意味します。
ビタミンAは脂溶性のために、酸化されたまま長く体内に留まって悪影響を及ぼす可能性をもっています。
ビタミンAを大量投与した研究では、メリットよりデメリットが多いという結果も出ています。
メリットだけを得るため、安全な範囲内で与えるようにしましょう。
ビタミンAは2種類にわけて考えましょう
ビタミンAを知るとき、動物由来のレチノールと、植物由来のβ-カロテンの2つについて区別しておく必要があります。
レチノールは効力の高さが特徴で、β-カロテンは安全性の高さが特徴です。
※他にもビタミンAの仲間がいますが、ここでは気にしなくて良いです。
ビタミンA(レチノール)の特徴
レチノールの特徴を箇条書きにてお伝えいたします。
- 肉や魚介類に含まれている
- 特に肝臓に多く含まれる
- すでに活性型ビタミンAで、体内で変換する必要がない
- 脂溶性である
- 体内に蓄積しやすい
- ゆえに中毒を起こす可能性がある
- 高含有食品は、鶏レバーと豚レバー
- 超高含有食品は大型魚の肝臓や肝油
ビタミンA(β-カロテン)の特徴
β-カロテンの特徴について、箇条書きにてお伝えいたします。
- 植物に含まれている
- 水溶性である
- 活性型ビタミンA(レチノール)の前駆物質である
- プロビタミンAとも呼ばれる
- 体内でレチノールに変換される
- 変換効率の問題で、効力はレチノールの1/12しかない(人の場合)
- 犬の場合の変換効率は、はっきりしていない
- 体内のレチノールが過剰なとき、変換されずに排泄される
- ゆえに中毒を起こさない
- 日本人はビタミンAの大半をβ-カロチンとして摂取している
- 以前はβ-カロチンと呼ばれていた
- β-カロテンの仲間がいくつか存在するが、さらに効力は弱い
ビタミンAを多く含む食品
ビタミンAを多く含む食品をリストアップしてみます。
比較のために、あまりビタミンAを含まない食品もリストに入れています。
食品名 | β-カロテン当量
(μg/100g) |
レチノール当量
(μg/100g) |
鶏レバー | 30 | 14000 |
豚レバー | - | 13000 |
あん肝 | 0 | 8300 |
牛レバー | 40 | 1100 |
鮭 | 0 | 11 |
豚バラ | 0 | 11 |
ニンジン | 8600 | 720 |
ホウレン草 | 4200 | 350 |
白菜 | 1900 | 160 |
ブロッコリー | 810 | 67 |
トマト | 540 | 45 |
キャベツ | 50 | 4 |
上記はすべて生(なま)の食品での値です。
調理してもビタミンAはあまり失われませんが、素材の重さが変わるので値は多少変動します。
ビタミンAの必要量と中毒量(ヒト)
犬に対するビタミンAの研究はほとんどありません。
ですので犬に与えるとき、人のデータを参考に考えるしかありません。
厚生労働省のデータをもとに、次のような表を作ってみました。
日本人男性
30~49歳 |
ビタミンAの量 | 鶏レバー
換算 |
推定平均必要量 | 650μg | 5g |
推奨量 | 900μg | 6g |
耐用上限量 | 2700μg | 19g |
急性中毒量 | 300000μg以上 | 2kg以上 |
※推定平均必要量:人々の50%が必要量を満たすと推定される1日の摂取量
※推奨量:人々の97~98%が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量
※耐用上限量:ほとんどの人々が健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量
※急性中毒量:一度の摂取で健康被害をもたらす最低量
犬のビタミンA必要量と上限量(推測)
上の表をもとに体重換算して、10kgの中型犬の場合を推測してみます。
単純に値を1/6にした表です。
成犬 | ビタミンAの量 | 鶏レバー
換算 |
推定平均必要量 | 108μg | 0.8g |
推奨量 | 150μg | 1g |
耐用上限量 | 450μg | 3.2g |
急性中毒量 | 50000μg以上 | 357g以上 |
人のデータを元にしていますので、もしかするとまったく当てはまらないかもしれません。
ただ私は、そうかけ離れた数字だとは思っていません。
この表からすると、毎日習慣的に鶏レバーを与えているとき、簡単に上限量を突破してしまうことがわかります。
※耐用上限量を突破しているからといって、実際に体調を崩す犬はごくわずかです。
もしも次のような症状が出ているようなら中毒気味かもしれませんので、鶏レバーはお休みしてみてください。(豚レバーでも同様です)
ビタミンAの中毒症状
犬にビタミンAを習慣的に与えすぎていると、次のような中毒症状が起こるかもしれません。
中毒はレバーなどの動物性ビタミンA(レチノール)を与えるときに起こる可能性があります。
- 頭痛(犬だとわかりづらい)
- 吐き気
- 肝機能低下
これらの症状はビタミンAの与える量を減らすことで、たいていすぐに回復してきます。
なお急性中毒症状の場合は、上記症状が強く出るだけでなく、命を落とす危険もあります。
ビタミンAは野菜で与えるのが安全
ビタミンAは、がん予防に役立つビタミンです。
同時に、不足しても過剰に与えても犬の健康を害する、少々扱いにくいビタミンです。
ただ中毒を起こさない水溶性のビタミンA、すなわちβ-カロテンがあります。
β-カロテンならば、過剰分は簡単に排泄されるため安全です。
おすすめ食品【ニンジン】
犬にビタミンAをもっとも与えやすい食品として、私はニンジンをお奨めしています。
中毒の心配が不要なβ-カロテンとしてビタミンAを含んでいます。
糖分が多めなことが若干のマイナスポイントですが、総合的に見てがん予防に役立つ食品と言えます。
ニンジンには次のような作用が期待できます。
- 粘膜の正常化
- 細胞増殖の調整
- 抗酸化作用
- 腸内環境の改善作用
これらの作用は、がんの予防に役立つだけでなく、アレルギー、皮膚炎、感染症など、さまざまな疾患の改善を期待させるものです。
茹でても良し、野菜スティックにしても良しです。
ご愛犬の健康と長生きのために、どうぞニンジンを役立ててみてください。
そんなこと言われてもレバーも与えたい!という方は、こちらもご参照ください。