著:薬剤師 岡田憲人 プロフィール
監修:獣医師 森内利郎(神戸市アルファ獣医科病院 院長)
動物病院でALPが高いと指摘されたとき、いったい犬猫たちの体内では何が起こっているのでしょう。
検査のたびに基準値をオーバーするのであれば、まずは肝臓もしくは胆管系の病気が考えられます。
ステロイド剤を使いはじめてからALPが上昇してきたなら、おそらく原因はステロイドの副作用でしょう。
ALPが高くなる原因はさまざまで、考え始めるとキリがないかもしれません。
しかしながら、まずは主な原因だけでも頭に入れておくことは良いことです。
難しい部分もあるかもしれません。ひとつでも知識になり、対策のヒントになれば嬉しく思います。
ご愛犬ご愛猫の健康と、飼い主様との幸せな暮らしを応援しております。
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実際の改善例をまとめています。お時間のあるかたはご参照ください。
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ALPの簡単な解説
ALPはアルカリホスファターゼの頭文字を取った略称で、ALKPと表記されることもあります。
血液検査の項目の1つとして、広く利用されています。
主に肝臓や胆管の病気を見つけたり、治療の経過をチェックするときに役立つ重要な検査項目です。
ALPの正常値
ALPの正常値は動物病院によって差がありますが、おおまかな目安として記載いたします。
犬 | 300以下 |
猫 | 200以下 |
もらった検査結果に正常値の範囲が記載されている場合は、必ずそちらを基準としてください。
ALPの変化を追っていくときは、できるだけ同じ施設で血液検査を受けると良いでしょう。
ALPが上昇するメカニズム
もともとALPは血液中にわずかに存在するだけですが、ALPを含む組織が障害されたり、排泄がうまくできなくなると血液中に入り込んできます。
ALPを多く含む代表的な臓器が肝臓です。
他にも骨、腎臓、腸など、あちこちの組織に含まれます。
変わったところでは胎盤にも多く存在します。
これらの組織からALPが漏れだすとき、血中のALPが上昇します。
胆汁の流れが悪いときにもALPが上昇してきます。
これは胆汁とともに腸に排泄されるはずのALPが逆流し、血液中に入り込んでしまうためです。
また薬の中にもALPを上昇させるものがあります。
影響のある薬の服用中は、本来のALPがわかりません。
これ以外にもALPが上昇する理由は複数あげられます。
ただしALPがいろいろな病気を見つけ出すことに役立つわけではなく、有用なのは肝臓、胆管、骨あたりの病気に限られます。
ALPが高くなる病気や、その他の原因
前述のとおり通常ALPは血液中にわずかしか存在していません。
そのALPが高い値を示すとき、体の中で何か異変が起こっている可能性があります。
もちろん心配な病気ばかりではありません。
安心のためにも動物病院でチェックしてもらうと良いでしょう。
なおALPの測定方法にはいくつかの種類があり、基準値は動物病院によって異なるようです。
犬と猫でも基準値が異なりますし、成長期や妊娠期では基準値を高めにするのが普通です。
胆管系の病気
ALPは胆汁とともに胆管を通って腸内に排泄されます。
ですので胆汁の流れが悪くなるにつれてALPは高くなる傾向があります。
胆管が詰まってしまい、胆汁の流れが完全に遮断されるようだと、ALPは一気に上昇するでしょう。
胆汁の流れを悪くする病気は、胆道感染症(胆のう炎、胆管炎)や胆石、胆泥症、胆管がんなどです。
肝臓病、肝炎
肝臓病といったとき、多くは肝臓が炎症を起こしている状態です。
そのようなときにはALPが高くなる傾向があります。
肝臓病にはいくつかの病態があり、たとえば慢性肝炎、急性肝炎、肝不全、脂肪肝、肝硬変などです。
肝臓を障害する病気
感染症や膵炎、胃腸などといった病気が、間接的に肝臓を傷めてALPを上昇させることがあります。
薬剤、化学物質の影響
ALPをよく上昇させる薬剤として、ステロイド剤やフェノバルビタール(抗けいれん剤)があります。
ALPが異常に高いときは、これらの薬の中断を検討したほうが良いでしょう。
その他にも肝臓に負担をかける薬剤はALPを上昇させる可能性があります。
何か肝臓を障害する化学物質を口にした可能性もあります。
骨折や骨の成長
ALPは骨に多く存在するため、骨折によって上昇することがあります。
犬猫ではあまりお目にかかりませんが骨粗しょう症でも上昇するでしょう。
骨に発生した腫瘍、他の場所のがんが転移してきた骨転移でも上昇します。
なお骨がよく成長しているうちはALPも高くなりますので、若い犬猫のALPは高めでもたいていは問題ありません。
クッシング症候群
クッシング症候群は別名で副腎皮質機能亢進症と呼ばれる病気です。
体内に分泌される副腎皮質ホルモンが多くなりすぎてしまう病気ですが、いうなればステロイド剤を飲み続けているような状態になります。
薬剤投与による影響を外因性ステロイドによるALP上昇、クッシングが原因のときは内因性ステロイドによるALP上昇となります。
妊娠
ALPが胎盤から漏れ出すために、妊娠中のALPは高くなります。
特に胎盤が発達してくる妊娠後期で高くなってきます。
妊娠によるALP上昇はあまり心配がありません。
出産とともに胎盤が体外に出ると、しばらくしてALPは下がってきます。
悪性腫瘍(がん)
胆管がん、胆のうがん、肝臓がん、骨肉腫などでALPが高くなります。
他にもすい臓がんや悪性リンパ腫で高くなることがあります。
ALPの上昇を伴うがんは、どれも体の深部に腫瘍を作るため、非常に治療が難しくなります。
その他の病気
糖尿病や脂質代謝異常症(高脂血症、高コレステロール血症)、高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)などで上昇する可能性があります。
これらの病気が肝臓を脂肪肝へと導くことが原因の1つでしょう。
肥満気味の犬猫は体脂肪だけでなく、肝臓にも脂肪が蓄積する傾向があります。
脂肪肝になりやすいため、ALPが高めになる場合があります。
ALPを下げるための投薬治療
ALPを下げるための動物病院は薬による治療を第一に考えます。
ALPが高いとき、上記のようにさまざまな原因が考えられます。
そのためALPを調べるだけでは病気を特定することはできません。
他の検査値のALT(GPT)やAST(GOT)、TBIL(総ビリルビン値)も一緒に見ていく必要があります。
複数の項目に異常が見られるとき、肝臓病もしくは胆道系の病気が疑われます。
ALPが高いとき一般的には次のような薬がよく使われます。
ウルソデオキシコール酸(ウルソ)は利胆剤と呼ばれる、ALPが高いときによく処方される薬です。
胆汁の詰まりを解消させたり、胆泥を少しでも減らすことが目的です。
スパカールはオッディ括約筋を開くような作用により、胆汁の流れを改善させようとする薬です。
フラジール(メトロニダゾール)は抗菌剤です。
感染症による胆管炎が疑われるときに処方されることがあります。
ALPだけでなく、他の肝機能値も悪いときは、各種の肝臓治療薬が使われることがあります。
薬は複数あるのですがあまり反応の良い肝臓病薬はなく、反応が芳しくない場合は様子を見ながら変更していくことになるでしょう。
薬はあまり効かない?
ALPが高いときには、胆汁の流れを良くするとされるとして利胆剤(ウルソデオキシコール酸など)や、スパカールなどといった薬剤が多用されます。
ただそれらが犬猫のALPに対して良く効いているかというと、そうでもないという答えになります。
私が獣医師から聞いたり、飼い主様から教えていただいている経過をもとにする限り、もし効いてくれたらラッキーであるといった程度だと感じます。
これらの薬は弱いと言わざるを得ませんが、副作用が少なく、安全性が高いことから、続けることに対してはあまり心配はないでしょう。
胆管炎が疑われるときには、フラジール(メトロニダゾール)が使われることがあります。
これは抗菌剤ですが、残念ながら必ず効くわけではありません。
まったく効いていないと判断されるときは、獣医師と相談して中断を検討したほうが良いでしょう。
意味のない連用は、副作用や耐性菌発現のリスクを増加させるだけになってしまいます。
薬だけに頼らないアイデアや工夫
薬だけに頼らずにALPを改善させている犬猫は、実はけっこういます。
食事を工夫してみたり、良質なサプリメントを加えてから良くなっている犬猫たちの症例を、飼い主様からよく聞かせてもらっています。
獣医師の中にもそういったアイデアや工夫を大切に考えている先生方がいらっしゃいます。
ペットの体に負担をかけず、安全にALPを改善させたいと考えていらっしゃる飼い主様は、参考にしてみてください。
改善した子たちの例
弊社メディネクスでは、薬だけに頼らない方法を具体的に提案しています。
食事についての基礎的な考え方
食事や日常生活の工夫は、ALPを改善させていく上でとても大切になってきます。
ご愛犬ご愛猫を健康にしていくという本質的な考え方において、薬はあくまで対処療法にすぎないことをしっかり認識していきましょう。
高ALPの原因が肝臓にある場合、そもそも薬を分解代謝する臓器である肝臓を、薬のみで健康にしようとすることは難しいと言わざるを得ません。
また原因が胆道系、胆汁の問題にあるとき、食事の影響を大きく受けるのは当然とも言えます。
治療において食事の工夫は重要であることに間違いありませんが、個々の食生活が異なるために、工夫も個々のものになってきます。
そういったことをふまえて、次のようなことをチェックするようにしてみましょう。
- 保存料や添加物を多く取りすぎていないか
- 腸内環境を意識したものになっているか
- 悪い油と良い油のバランスを崩していないか
これらは肝臓の負担を減らそうと考えるときにチェックしてあげてほしいポイントです。
なお初期の軽い肝炎からタンパク質の少ない肝臓サポート食を与えていると、むしろ肝臓の健康を妨げることがあるので注意しましょう。
食事では70点くらいで良いということも頭に入れてほしいと思います。
なぜならば完璧な100点を狙いすぎてしまうと、たとえば食事の美味しさ、生活の楽しみなど、本当に大切な部分を見失いがちだからです。
さらに言えば、そういった犬猫たちを喜ばせること自体が治療にプラスになると私は日々実感しています。
無理な方法は長続きしないだけでなく、治療がうまくいかないパターンに陥ってしまうと思います。
まずはトッピングというアイデアを取り入れてみると良いでしょう。
これは今までのフードは急に変えず、その子にプラスになると考えられる食材を加えていく工夫です。
完全手作り食に移行しても良いのですが、最初の一歩としてトッピングを利用した「半手作り食」から開始してみると良いと思います。
肝臓の再生能力(自己修復能力)に着目する
肝臓は自己修復できる再生能力を持った臓器です。
できれば再生能力を高めるような工夫も同時に実行していくと効果的です。
先程、薬は対症療法であるとお伝えしましたが、薬の中でプラセンタ注射は肝臓の再生を促すと考えられる医薬品であり、ALPや他の数値が高いときに試してみる価値があると考えます。
使用している知り合いの先生方からは、プラセンタ注射の反応はなかなか良いものであるとお聞きしています。
導入している動物病院がご近所にありましたら、相談してみると良いかもしれません。
プラセンタを配合する製品も、品質の高いもの(SPFブタ100%使用など)ならば肝臓の健康管理に期待できます。
どうしても通院の必要になるプラセンタ注射に併せて、自宅で与えられるプラセンタ粒を推奨している先生方もいらっしゃいます。
他の肝臓薬と併せるケースや、プラセンタだけを使っていくケースもあります。